日々お茶暮らし

お茶で有名な川根地域でお茶づくりをしている茶農家のブログです

農薬のことをしっかり考えてみる

お茶は夏のシーズンになると害虫や病気から守るために農薬を使用することがあります。

安全に、そして高品質なお茶を作るためには農薬が必要不可欠なのですが、農薬に対して不安な気持ちを持つ方も多いと思ます。

 

そこで今回は、農薬について今まで勉強してきたこと、考えていること・思っていることについて投稿したいと思います。

 

※農薬についての話ですが、決して無農薬栽培や有機栽培を否定するような物ではありません。あくまでも、ひとつの意見として目を通してもらえれば幸いです。

 

 

農薬とは

まず農薬とはどのような物なのか…?というと、

作物を害虫や病気から守るために使用する薬

作物の生長を手助けする薬

の2つに主に分かれます。

 

一般的なのは害虫や病気から守るために使用しているイメージですね…。

 

その他にも、例えばブドウを種なしにするために「ジベレリン」という成長ホルモン剤を使用することがあります。農薬には、作物の生長を手助けしたりするものも含まれます。

 

そして、化学的なイメージのある農薬ですが、実は自然由来の農薬もあるのです。

 

 

ちなみに、農薬には作物の収穫量を増やす効果はありません!

作物の収穫量を増やす効果があるのは肥料です。

 

では、農薬はどのような役割なのか…というと、

病気や害虫から守り、収穫のロスを減らす

安定的に同じ品質の物を作る

安全で安価な農産物を作る

これらの役割があると思っています。

 

本来であれば100%収穫できる農産物も、害虫や病気の被害に遭うと収穫できる割合はかなり低下します。

害虫や病気の被害から守り、本来収穫できる量を維持するのが農薬の一番の目的です。

 

安定的に収穫出来れば、食糧供給も安定的にできますし、価格も抑えることが出来ます。

また、農薬を使用することで、安全な農産物に育てることが出来るのです。

 

 

農薬=毒ではない

農薬(殺虫剤)は害虫を殺すものになります。そのため、農薬=毒というイメージを持ってしまうのは仕方のないことかもしれません。

 

しかし、農薬=毒とは断言できないのです。

 

例えば調理の時に使用する『塩』

塩は毒でしょうか…?

 

塩は人が生きていく上では欠かせない物…。料理の味付けに使ったり、身近な調味料ですね!

そのため『毒』では無いと感じるかもしれません。

 

しかし、『塩』を大量に食べたりすると人の生死に関わります。体重1㎏に対して3gほど(60㎏であれば、180gでしょうか)の塩を一度に摂取すると命に関わるとされています。

 

 

また、眠気を覚ましたりする効果があるカフェイン。

コーヒーやお茶類、エナジードリンクなどに含まれている成分ですね。

 

こちらも身近で人の役に立つ成分ですが一度に大量に摂取してしまうと生死に関わります。

 

もちろん、水も身近な野菜たちも同じです。

 

毒であるかないかを決めるのは物質ではなく『量』

全ての物は安全で役に立つ物であり、同時に毒の一面も持っているのです。

 

 

農薬にも色々…

農薬の危険性についてネットで検索すると、『ネオニコチノイド農薬』『有機リン系農薬』などが必ず出てきます。

 

環境・人への影響があるのでは…?という研究結果や体験談などから、危険な物だと書かれている記事が多く見られますね…。

 

もちろん環境への影響が大きい農薬があるのは確かです。

最近の研究で

「人に対しての影響が大きいのでは…?」

という結果が出ている物(ネオニコチノイド農薬)もあります。

 

そのため、農薬全てが環境や人の体に悪影響があるように感じてしまうかもしれません。

 

 

しかし環境や人に悪影響があるとされる農薬はごく一部です…。

さらに言えば、このような農薬や疑いのある農薬の使用は年々減少しています。

 

川根町上河内地区では「ネオニコチノイド農薬」「有機リン系農薬」「合成ピレスロイド農薬」などの環境に対して影響の大きい農薬は一切使用していません!

 

近年開発された農薬は特定の害虫にしか効果が出ない(チョウ類なら葉っぱを食べたりする一部の害虫のみなど)がほとんどです。

 

このような農薬は非常に安全性が高く、周りの環境にも配慮されています。

農家にとっても安心して使える農薬ですし、作られた農産物の安全性も確かです!

 

ただし、生産者としては値段が高いのが少々辛い所ではあります…(^^;)

 

 

確かに昔使用されていた『有機リン系農薬』の一部には危険な物もあったでしょう…。

しかし、今では農薬に対する安全性の意識は非常に高くなっています。新しく開発される農薬は、安全性に配慮された物ばかりです。

 

目的の害虫・病気のみに効果があり、そして同時に安全性が高い成分を見つけ出すのは時間もコストもかかります。農薬のメーカーさん、研究員さんの努力のお陰で、安全性の高い農薬が作りだされているのです。

 

また「ボルドー剤(病気を防いだり、微量要素を補給する農薬)」などはもともと安全性が高く、有機農業でも使用することが出来る物もあります。

 

そのため一部の危険だとされる農薬にとらわれず、農薬=危険だとまとめず、様々なタイプの農薬があることを知っておいて欲しいと思います。

 

 

ちなみに、農薬には発ガン性があると書かれているサイトがあります。

これは農薬のことを勉強していると全く根拠のない意見だと分かります。

 

もちろん、昔使用されていた農薬の一部には危険な物がありました。しかし現在では発がん性などをきちんと試験し試験に合格した物しか新に農薬として登録されません。

 

そもそも発ガン性がある農薬は、農薬として認められないのです!

 

農薬や農薬の試験についての資料はとても膨大です。

その資料をすべて印刷し積み上げると2mほどの高さになるとされています。

 

ガンになるのは農薬のせいだと、農薬が使用されているからだと決めつけるのは時期尚早です。

何か特定の答えや原因を求めたくなりますが、生活習慣や仕事や生活におけるストレス、pm2.5排気ガスなど大気の問題…多くの事柄が複雑に絡み合っているため、特定の何かが原因だと判断するのは難しいのではないでしょうか…。

 

 

正しい使用方法を遵守

動物が食べるエサに農薬を混ぜ、動物を殺したり痛めつけたりするニュースを時々見聞きしますが、農業者としてこのように農薬を使用するのは断じて許せません!

 

このようなニュースを見ると、「農薬=危険」という認識が広まってしまうのは仕方のないことにも感じます。

 

確かに農薬には注意しなければならない点は多いです。農薬取締法など法律を遵守し、決して間違った使い方をしてはいけません!

 

そして、これは農薬に限った話ではないでしょう…。

 

例えば、料理に使う包丁はきちんと手入れをしよく切れるものほど美味しい料理が作れるとされています。しかし、同時に簡単に人を傷つけたり命を奪うことが出来る道具でもあります。

 

車も同じですね。移動には便利ですし、トラックなどは物流には欠かせません。

しかし、事故などを起こせば、簡単に人の人生を奪ってしまう物でもあります。

 

そのため、間違った使い方をするのは言語道断ですし、しっかりと注意して使用しなければなりません。

 

 

農薬に限らず、身近な”包丁””ハサミ””車”などであっても間違った使用方法を取れば、危険な物に早変わりしてしまいます。

 

その物を危険な物にするのか、安全な物にするのかは、使用方法や取り扱い時の注意に関わっています。

 

どんな物であっても危険な一面は必ずあるものです。だからこそ、危険な面・注意すべき点をしっかりと勉強し、

正しく使用することが重要なのではないでしょうか…。

 

農薬も正しい使用法を守れば、何も心配することはありません!

農薬を散布しても、お日さまの光や雨、微生物たちの力により、必ず成分が分解されるように作られています。

 

そして、安全性や環境に対しての研究や試験をきちんとクリアした物しか農薬として登録されません。

 

 

回数ではなく、物と量を気にしてください

農薬の危険性についてネットで調べると

○○は年に何回農薬をかけている

と農薬をかける回数が多いことを問題にあげているサイトがあります。

 

しかし作物を育てている農業者から見ると、農薬をかける回数を問題にすることは少し的が外れています。

 

農薬をかける回数以上に「農薬の種類」と「かける量」の方が重要なポイントとなります。

 

 

例えば、一人は東京から品川まで5回電車に乗ったとします。もう一人は東京から小田原まで1回電車に乗ったとします。

さて、どちらの方がたくさん電車に乗ったでしょう…?

 

たくさんの意味を「回数」として捉えれば、5回乗った人でしょう。

逆に、たくさんの意味を「距離」や「時間」として捉えれば、1回乗った人でしょう。

 

「○○は年に何回農薬をかけている」と言うのは、これと同じであると私は思っています。

 

 

もしかしたら農薬をかける回数は少ないけど、一度に大量にかけているかもしれません。逆に農薬をかける回数は少ないけど一度にかける量は少ないのかもしれません。

 

「年に農薬を何回かけている」という情報だけでは、どれに当てはまるのか決して判断することが出来ないのです。

 

 

お茶の場合であれば、地域によっては10a当たり1000L/1回もの量をかける地域もあれば、同じ面積で250L/1回しかかけない地域もあります。

 

農薬をかける回数は注目されやすいですが、それ以上に「農薬をかける量」も重要なポイントになるのです。

 

 

また、かける農薬の種類も重要です。

安全性が高く、作物を病気から守ったり微量要素を補給する役割のあるボルドー剤は、ぶどう栽培などではこまめに散布することがあります。(お茶でも、ボルドー剤は使用します)

 

安全性の高い農薬を適した量でこまめにかける場合は、回数が多くても心配する必要はありません。むしろ、安全で品質の高い農産物を楽しむことが出来ます!

 

逆に、農薬をかける量は少なくても使用した農薬が「有機リン系農薬」「ネオニコチノイド農薬」だったらどうでしょうか…?

 

 

農薬をかける回数だけを気にしていたのでは、重要なポイントを見落としてしまう事があります。

もし、農薬の使用が気になる方は、農薬をかける回数ではなく、「使用した農薬の種類とかける量」にも目を向けた方が良いと思います。

 

 

安全と安心は別物

「農薬は危険」というイメージはどうしても強いでしょう…。

そのため、『無農薬や有機栽培であれば安全だ』と感じるかもしれませんが、農薬を使用していないからと言って安全であるとは断言できないのです。

 

「安全」は何か明確な基準があって、初めて証明されるものです。

 

農産物であれば、農薬の使用は農薬取締法できちんと決められていますし、残留農薬検査を実施して基準値内であるかなどをきちんと検査しています。

 

法律やルールなど明確な基準がなければ、「安全」の基準は人それぞれで異なったものになるでしょう…。もし、乗り物の整備(車や飛行機など)に明確な基準がなく、人によってバラバラだったらとても怖いですよね(>_<)

 

安全性を証明するためには、明確な基準に沿って、客観的に証明しなければならないのです。

そのため、農薬を使用した農産物であっても法律や検査をきちんとクリアした物であれば、安全であると証明できる、断言することが出来ます。

 

農薬に対して不安な気持ちがあり、無農薬や有機栽培の物が良いと思うのは、あくまでも農薬を使用していないことに対する安心なのです。

 

 

ちなみに、無農薬や有機栽培の場合は、農薬を使用しない場合のリスクも発生するでしょう…。

害虫や病気の被害に遭えば、作物にはストレスが溜まり自らを守ろうと化学物質を作り出したり、アレルゲンとなる成分を強めたりすることもあります。(一部研究もあり)

 

また、作物の病気の大半はカビを原因としています。

一部の病気の原因となるカビには発がん性物質が含まれていることも…。農薬を使用すれば防げたカビのリスクを背負う必要があります。

(学生時代にお世話になった、病気を研究していた先生は無農薬の農産物は怖いので食べない…という方もいました)

 

もちろん、農薬を使用する場合も、残留農薬の問題などがあるでしょう…。

 

農産物の安全性に関しては、農薬を使用する栽培方法であっても、無農薬や有機栽培であっても同程度…。

どちらの方が安全性が高いと断言することはできないです。

 

 

有機農業の目的

よく有機農業では「農薬を使用していないことで安全な農産物を作る」とアピールしていますが、有機農業の定義には『安全』という言葉は入っていません!

 

有機農業の本来の目的は

・化学的に合成された肥料・農薬を使用しない

・遺伝子組み換え技術を使用しない

・環境への負担をできる限り低減する(循環型農業)

この3つです。

 

特に重要なのが「環境への負担をできる限り低減する」という点で、これが有機農業の本質です。

実は『安全』という言葉は、有機農業の定義や本質からは少し離れているのです。

 

 

ちなみに、有機栽培の方が美味しいというのは、根拠がありません。

もちろん、作物の味は作物の育て方や育つ環境に大きく影響しますが、有機栽培や無農薬栽培が特別美味しくなるわけではありません。もちろん、普通の栽培方法であっても同じです。

 

また、「美味しい」と感じる基準は人それぞれ違います。人それぞれに美味しいと感じる基準があり、ものさしを持っているのです。唯一絶対の基準があるわけではありません。

 

 

※一部の無農薬・有機栽培の業者は”安全”だけを売りにしている方もいます。有機農産物は単価が高い(結果として高くなってしまう)ので、儲けることだけを考えている方も全くいないわけではありません…。

 

無農薬・有機栽培は、あくまでの作物の育て方の一種。そして農業者、生産者の生き方の一種です。

もし無農薬栽培や有機栽培にこだわるのであれば、”安全”だけに着目するのではなく、生産者がどのような考えでその栽培方法を選択しているのかを知ることが重要です。

 

 

安心して購入してもらえるように…

最初に述べたように、私個人としては無農薬や有機栽培に対して決して否定的な意見を持っている訳ではありません。

 

しかし、農薬を使用していることで

「農薬を使用している農業者は勉強不足だ…」

「危険な農産物を作っている…」

などと否定されるのは少し辛いです。

 

無農薬や有機栽培をしている方にしっかりとした信念があり農薬を使用しない、あるいは有機栽培で作る事を選択するように、農薬を使用している農業者にもきちんと信念・考えはあります!

 

また、農薬を使用する=決して無勉強なわけではありません。

食の安全性への関心が高まる中、環境や人に対して優しい農薬を選択したり、適切に農薬を使用するためには、きちんとした知識が必要です。

 

作物や土、環境に対する知識はもちろん、農薬や化学に対する知識も必須!

 

どうしたら安全性の高い農産物を作れるか?

どうしたら品質の良い農産物を作れるか?

どうしたら、消費者に喜んでもらえる農産物を作れるか…?

しっかりと考えた上で、農薬を使用することを選択しているのです。

 

決して農薬を使用する農家と、無農薬・有機栽培の農家の、どちらが劣っているか・勝っているかなんて断言することはできません。

 

また、農薬の使用に関しても、決して何も考えず農薬に頼っている訳でもありません!

その点だけは、誤解しないで欲しいです(>_<)

 

 

農業の世界では農薬に対するイメージが悪いため、農家ブログなどを見ても農薬に関する投稿は少ないです。

 

しかし、印象が悪いからと言って隠したのでは、消費者の方々に「どのようにして作っているのか」をしっかりと伝えることが出来ません。

 

農薬を使用している農産物でも、無農薬・有機栽培の農産物でも安全なのは当たり前!!

農作物の生産者として「安全」を売りにするのはナンセンスだと私は思っています。

 

安心して農作物を購入して頂けるように、どのようにして育てているのか、どのような人がどのような思いで作っているのかを伝えることが重要であると思います。

 

 

最後に…

長文、そして少しアツい内容になってしまいました…m(_ _)m

農薬に対する研究や新しい農薬の開発は日々行われています。

 

それらをきちんと情報収集することはもちろん、少しでも効率的に農薬を使用し、使用量・回数を削減できるように努力するのは、農業者としてずっと続ける課題です。

 

少しでも安全で高品質な農産物を育て、消費者の方の下へ届けるために、農作業の様子の発信、そして今後もしっかりと勉強と努力を続けます!